エシレバターと日本の普通のバターって違います?
そうですね、かなり違います。3段上の味がしますよ。
3段?具体的には何が違うんですか?
特に感じるのは、発酵による濃い香り・牛乳自体の旨味・そして滑らかさです。ちょっとそのあたりエシレさんのページで確認してきますね!
と、いうことで今日はエシレバターについて調べてきました。
丸の内の「エシレ・メゾン デュ ブール -ÉCHIRÉ MAISON DU BEURRE-」は開店して10年たちましたが、今も並んでます。一流シェフが使う、とか、各国の「ロイヤルファミリー」が使う、しらすと相性が…などと話題ですよね。
美味しさに差がつく3つのポイント、そして詳しい製法・厳しい基準についてお伝えしましょう。
エシレバターって何?
っていうか、エシレバターって何?って人もいますよね。少しだけ紹介をどうぞ。
エシレ バターは、優れた乳製品の産地として知られるフランス中西部・エシレ村で生産されるクリーミーな口あたりと、芳醇な香りが特長の発酵バターです。
発酵バターはクリームを乳酸発酵させてからつくるバターで、ヨーグルトのような軽い酸味があり香り高いのが特長。
エシレ酪農協同組合は1894年からバター作りをはじめ、代々伝わる乳酸菌を大事に使いながら、昔ながらの製法で変わらぬ味を守り続けています。
エシレバター代理店「片岡物産」のページより
そう、エシレ(Échiré)って言うのは村の名前です。このエシレ村の酪農組合が作ったバターを「エシレバター」と呼ぶのです。
エシレ村はボルドーと同じヌーヴェル・アキテーヌ地域圏にある村で面積は30㎢。だいたい埼玉県の三郷市や、東京の府中市と同じ面積の村に3,000人ほどの人が暮らしています。
三郷市はこの面積に13万人、府中市は26万人なので、人口密度は各市の50~100分の1程度ですね。非常にゆったりとした村です。
新石器時代から人が住んでいたことを示す遺跡もあり、水資源に恵まれ、かつ人間が住みやすい平地ということが分かります。(エシレ村のホームページより)
さて、そんな村で作られるバターの秘密は、というと…
エシレバターが他とは違う3つのポイント
細かく見ていくともっとたくさんあるのですが、味の違いを作るポイントは大きく3つ。順に見ていきましょう。
ここが違う①発酵バターと普通のバター
日本で市販されているバターの多くは無発酵のバターです。
もともとヨーロッパでバターを作り始めた紀元前は冷蔵技術が発達しておらず、バターを作るときに自然に発酵が進むこともあったそう。
その歴史があり、ヨーロッパでは発酵バターが主流。
対してバターが日本に普及した13-14世紀には冷蔵技術も進んでいたので、無発酵バターが主流になったと言われています。
ちなみに、この頃はバターは「酥(そ)」と呼ばれていました。
発酵させるのは時間もかかりますし手間ですが、発酵によりコクが深まり、ジアセチルという香気成分も発生します。発行のために加える乳酸菌はエシレ村に伝わる菌を使います。
ここが違う②「木樽を使った撹拌」
発酵させたクリームをかき混ぜることによって脂肪分を固めてバターができます。
一般的にはステンレス製が多い撹乳機ですが、エシレの酪農組合ではオーク製の樽にこだわっています。この樽で作るからこそ、滑らかで柔らかなバターの食感が出来上がるそう。
ここが違う③「牛乳を提供してくれる牛が違う」
エシレ村の土壌は、ジュラ紀の石灰岩の上に赤い粘土、沖積土という構成。
ここに定期的にマメ科のアルファルファを植え、土壌の養分を豊かにした上で牛を放牧しています。アルファルファは干し草にしても栄養価が高いので、放牧できない日にはアルファルファの干し草を与えます。もちろん、飼料はすべて農場で育ったもの。
面積や、酪農従事者の数によって、買える牛の頭数も決まっているので、高品質な牛乳が生産できます。牛乳が、2つの乳製品製造拠点(エシレ村のバター工場と、Celles-sur-Belleのチーズ工場)から半径30㎞以内で搾乳され、新鮮な状態で届くのも美味しいバターのポイントです。
バターを作る手順
この3つがポイント!と言われてもそもそもバターの作り方知らないと、V16気筒エンジンのすごさを語られた車に乗らない僕みたいな状態ですよね(笑)
ということで、バターの製造工程についても調べました。
クリームから脂肪分を凝縮してバターを作るってのは知ってましたが、詳しい製造工程は今回初めて知りました。エシレ村の製法では、1㎏のバターを作るのに22リットル(約22.7キロ)の生乳が必要だそう。23倍凝縮の乳脂肪分って考えるとすごいですよね。
クリームを90度で低温殺菌
特別な乳酸菌を加え18時間の発酵
エシレ村に伝わる乳酸菌を加えてクリームを18時間発酵させます。
二重壁のタンクの中でゆっくりと混ぜながらクリームを発酵させることにより、バターは香り高くなり、ジアセチルというヘーゼルナッツのような香味成分を生成します。
木製撹乳機による2時間半の撹拌
2時間半をかけ、木製の撹乳機でクリームをかき混ぜます。
生クリームを泡立てすぎて分離しちゃったことありません?この過程ではその分離を行っています。乳脂肪の周りの膜を破り、脂肪球同士を結合していくのですが、イメージしづらいので図にしました。こんな感じ。
加水して練るのが、この次の段階、バターの洗浄です。
バターの洗浄
バターに残った最後の水分を練りだすため、水を加えて練ります。
呼び水とでも言うんでしょうか、水を加えて練ると残っていた水分が出てくるのです。この過程によりバターから酸味を軽減し、水分が減ることにより、長期間の保存が可能になります。水はエシレ村のきれいな湧き水。水の美味しさも大事とエシレさんが言ってます。
そして再度撹拌し、全体を均一な状態に仕上げます。
梱包
撹拌機から出たバターは梱包室に送られ、個別に包装されます。
この写真のバターは100gサイズですね。1箱当たり10個入っているので日本で買うとこれで、1万円相当!フランスだと20€くらいです。
原産地固有名称:Charentes-Poitou A.O.P.(シャラント・ポワトゥ)
EUがその土地で生産される伝統的な農産品の保護のため指定する認証:A.O.P.
原料の生産地域・製造地域・製造工程などについて細かく規定され、認証を得た製品のみ写真の黄色いシールが貼られています。バターでA.O.P.認定を受けているのはフランス全土で3地域のみ。
エシレはこのうち最も歴史を持つシャラント・ポワトゥ地区のA.O.P.認定を受けています。
A.O.P.シャラント・ポワトゥバターの特徴
A.O.P.シャラント・ポワトゥーは、1979年にフランス国内認証であるA.O.C.認定を受け、2009年にEUの規格であるA.O.P.に登録されました。
シャラントポワトゥA.O.P.には4つの地域(Charente・Charente-Maritime・Deux-Sèvres・Vienne)が登録されており、エシレはこのうちドゥー・セーヴル県に所属しています。
他のバターよりもゆっくり溶けることも、高く評価をされる理由の一つで、フランスでは、A.O.P.シャラント・ポワトゥーのバターはバターの王とも呼ばれています。
※AOPエシレは存在しません!!たまにAOPエシレが…って書いてるサイトがありますがあれは嘘です…
おわりに
日本に戻って、あれ?バターが薄いって思ったり、ときどき口にするエシレバターの旨味に驚いたりすることもありましたが、美味しさの秘密が紐解けてすっきりしました。
これで気兼ねなくエシレバターを買える!ということもありませんが(笑)どこかで手頃な値段になっているのを見つけたら買おうかなぁなんて思ってます。
参考ページ
片岡物産(エシレバター日本代理店)・エシレ酪農組合・よつ葉乳業・雪印メグミルク株式会社
・タカナシ乳業株式会社・フランス家畜連盟・フランス乳製品生産組合
特別な記載がない写真はエシレ酪農組合からお借りしています。