そろそろバレンタインですね。
何か美味しいチョコを少しだけ買いたいけれど、どうしたらよいかな。せっかくフランスにいるから美味しいチョコを探そう、と思ってたらいろんな専門用語が並んでいてわかりづらかったのでちょっと整理しました。
チョコ好きの人以外には、そこまで役立たないかもしれませんが、サロン・ド・ショコラの予習や「フランス人が美味しいというチョコを買いたい!」ってときに役立つと嬉しいです。
すごいと表彰されてるショコラティエの地図
ちょっと長い記事になるので、先に「美味しいショコラティエどこ?」って探すときに使える地図をどうぞ。M.O.F.という人間国宝みたいなものと、C.C.C.というパリでも信頼されている機関によって表彰されたお店をマッピングした地図。東京・フランスどちらでも使えます。
メゾン・デュ・ショコラとサロン・デュ・ショコラって違う?
まず、僕はこの二つがごちゃごちゃになってました。
毎年パリのヴェルサイユ展示場を皮切りに、東京やソウルでも行われるサロン・ド・ショコラ。名前も似てるしメゾン・ド・ショコラと関係あるのかなって思ってました。サロン・ド・ショコラで表彰されたお店が、メゾン・ド・ショコラに並ぶのでは?とか(笑)
しかし、この二軒に関係はありません。メゾン・ド・ショコラはお店(メゾン:家)の名前で、サロン・ド・ショコラはイベント(サロン:展示会)の名前です。(紛らわしいですよね…)
メゾン・デュ・ショコラとは
1977年にロベール・ランクスさんがパリで始めたお店の名前。日本にも数多く出店しているのでご存知の方も多いかも知れません。現在は二代目のニコラ・クロワゾーが経営しています。
サロン・ド・ショコラとは
1995年にチョコレートが大好きな事業家二人によってパリで開催されたのが第一回。
当初は規模も小さかったですが、現在はパリの会場(パリ15区にあるポルト・ド・ヴェルサイユ見本市会場)には5日間で10万人以上が訪れています。1998年にニューヨーク、2002年に東京と開催場所を増やし、毎年全世界で100万人規模のイベントになるとか…!
2018年のサロン・デュ・ショコラのイベントに関してはこちらにもまとめています。
でもまったく関係ないことはなくて
サロン・ド・ショコラの初代オーナーショコラティエ、ロベール・ランクスさんは、第一回のサロン・ド・ショコラからメンターショコラティエ(アドバイザーみたいな感じ)をしていました。
また、ロベール・ランクスさんを「ガナッシュの魔術師」と絶賛した哲学者のジャン=ポール・アロンさんがサロン・ド・ショコラとパートナー関係にあるC.C.C.(詳しくは↓)の発起メンバーであることが並べて書かれることも、話が混乱する理由かもしれません。
メゾン・ド・ショコラのウェブなんかまさに!
C.C.C.(Club des Croqueurs de Chocolat / クラブ・デ・クロクール・ドゥ・ショコラ チョコレート愛好会)って?
サロン・ド・ショコラでよく見かけるC.C.C.はチョコレートを好きな一般の人の同好会です。
1981年に創設されたこのクラブのメンバーは150名のみ。医師、弁護士、大学教授、ジャーナリストなどいろいろな職種の人、そして数名のショコラティエをで構成されています。
メンバーになりたい場合は、現メンバー2名の推薦を得てモチベーションレターを会長あてに郵送するのですが、ウェイティングリストは長く、めったにメンバーになれることはないそう。
C.C.C.の審査って?
基本的に、C.C.C.ではそれぞれの部門に対して、ショコラを応募する形式です。この点、覆面調査員がやってくるミシュランとは違いますね…そのショコラをメンバーでテイスティングして評価するので、一般のチョコマニアによる評価、というのが近いかも知れません。
そして、この評価もまた、サロン・デュ・ショコラの話題の一つになっています。特に話題になるのは「今年見逃せないショコラティエ」でしょうか。
2018年C.C.C.の「Les Incontournables 見逃せないショコラティエ」
アオキサダハルさんが8年連続で表彰されている事でも話題になるこの賞。美味しいもの好きの人から聞くお店が多く選ばれています。そして、けっこう多店舗展開・国際展開しているお店も多いので、サロンドショコラ・C.C.C.を経て世界へ、という足掛かりにもなっているようですね。
主な出店先・店舗数 | パリ店 | 東京支店 | SdC 出展 | |
Arnaud Larher アルノー・ラエール | パリ中心に4店舗 | ◎ | ◎ | ◎ |
Fabrice Gillotte ファブリス・ジロット | ディジョン中心に5店舗 | ー | ◎ | ー |
Franck Fresson フランク・フレッソン | アルザスに2店舗 | ー | ー | ◎ |
Gilles Cresno ジル・クレスノ | パリ郊外に3店舗 | △ | ー | ー |
Henri le Roux アンリ・ルルー | パリ・ブルターニュ・東京など10店舗弱 | ◎ | ◎ | ◎ |
Hubert Masse – le Cacaotier ユベール・マッス ル・カカオティエ | パリに6店舗 | ◎ | ー | ー* |
Jean-Paul Hévin ジャン・ポール・エヴァン | パリ・東京を始め20店舗弱 | ◎ | ◎ | ◎ |
Laurent Duchene ローラン・デュシェーヌ | パリ中心に3店舗 | ◎ | ー | ◎ |
Lenôtre ルノートル | パリを中心に10店舗弱 | ◎ | ー | ◎ |
Nicolas Cloiseau – La maison du Chocolat ニコラ・クロワゾ ラ・メゾン・デュ・ショコラ | パリ・東京・NYはじめ世界各地50店舗以上 | ◎ | ◎ | ー |
Pascal le Gac パスカル・ル・ガック | パリ郊外と東京に各1店舗 | △ | ◎ | ◎ |
Pierre Hermé ピエール・エルメ | パリ・東京を始め世界20店舗以上 | ◎ | ◎ | ◎ |
Pierre marcolini ピエール・マルコリーニ | パリ・東京を始め世界10店舗以上 | ◎ | ◎ | ー |
Richard Seve リシャール・セーヴ | リヨンに8店舗 | ー | ー | ー |
Sadaharu Aoki サダハル・アオキ | パリ・東京を始め10店舗弱 | ◎ | ◎ | ◎ |
M.O.F.(モフ)ショコラティエって
ひとつめ、M.O.F.はフランスの文化省が認めた職人に与えられる称号です。
1924年に初めての認証が行われたM.O.F.ですが、ショコラティエの審査が始まったのは第18回の1990年。第26回、2018年に行われた9度目のM.O.F.ショコラティエ審査を経て、現在22名です。
長い試験を必要とする資格ですし、1990年の時点で十分な名声を得ていたPierre Hermé(ピエール・エルメ)さんやJacques Genin(ジャック・ジュナン)さんはM.O.F.を持っていません。
また、日本でM.O.F.ショコラティエと言われている人には、M.O.F.ショコラティエではなくM.O.F.パティシエがやっているショコラの部門、ということでM.O.F.(パティシエによる)ショコラティエというお店もいくつか…
Jean-Paul Hévin/ジャン・ポール・エヴァンさんやArnaud LARHER/アルノー・ラエールさんはそちらです。
MOFパティシエ
M.O.F.パティシエは現在80名ほど。こちらの方が受賞者は多いです。ケーキ店ではショコラ売ってるし、同じ職能かと思っちゃいますが、パティシエに言わせるとショコラティエとパティシエは別物だそう。
素人の僕からしたら、どちらもめっちゃ美味しいんですけどね(笑)F1ドライバーもル・マン24時間耐久レースのドライバーもすごい、みたいな感じで…
M.O.F.(モフ)ショコラティエ歴代受賞者
歴代受賞者のうち、どれだけ日本で買えるのかを調べてみたら、さすが日本。半数以上のチョコが日本で買えます。日本での販売欄でSdcと書いてるところは日本各地で開催される2019年サロンドショコラ(Salon du Chocolat)に来ていたお店です。リンク先にプロフィールなど詳しく載ってます。
地方のショコラティエも多くて、僕も知らない町にあるお店が多かったので、エリア名は近くのわかりそうな都市を書いてます。数十キロの誤差ありです(笑)
年次 | 名前 | 勤務店 | パリ店 | エリア・店舗数 | 日本での販売 |
2018 | OCCHIPINTI Paul オッキピンティ・ポール | Hôtel du Cap-Eden-Roc オテル・デュ・キャップ エデン=ロック | ー | カンヌ 1店舗 | SdC (催事) |
DURANT Vincent デュラン・ヴァンセント | 辻調理師専門学校 | ー | ー | ー | |
CHEVALIER Yvan シュバリエ・イヴァン | Chocolaterie Vincent Guerlais ショコラトリー・ヴァンサン・ゲルレ | ー | ナント 3店舗 | 大丸 (催事) | |
2011 | Frédéric Hawecker フレデリック・アヴェッカー | Hawecker ※頒布会あり アヴェッカー | ー | アヴィニョン 1店舗 | Sdc (催事) |
2007 | Nicolas Cloiseau ニコラ・クロワゾー | La Maison du Chocolat ラ・メゾン・デュ・ショコラ | 有 | パリ・東京他 約50店 | 各路面店 |
Bruno Lederf ブルーノ ルデルフ | Pâtisserie Le Derf パティスリー・ル・デルフ | ー | レンヌ 5店舗 | SdC 阪急 (催事) | |
Pierre Mirgalet ピエール・ミァガレ | Pierre Mirgalet Chocolatier ピエール・ミァガレ・ショコラティエ | ー | ボルドー 1店舗 | ー | |
Olivier Vidal オリヴィエ・ヴィダル | Olivier Vidal オリヴィエ・ヴィダル | ー | オーセール 2店舗 | SdC (催事) | |
2003 | Philippe Bel フィリップ・ベル | Chocolaterie Philippe Bel ショコラトリー・フィリップ・ベル | ー | リヨン 2店舗 | SdC (催事) |
Christian Camprini クリスチャン・カンプリニ | Chocolate Christian Camprini ※頒布会あり チョコレート・クリスチャン・カンプリニ | ー | カンヌ 1店舗 | SdC (催事) | |
Franck Kestener フランク・ケストナー | Franck Kestener フランク・ケストナー | 有 | アルザス・パリ 3店舗 | SdC (催事) | |
2000 | Patrick Roger パトリック・ロジェ | Patrick Roger ※ウェブショップあり パトリック・ロジェ | 有 | パリ他 9店舗 | SdC 高島屋 (催事) |
1996 | Thierry Atlan ティエリー・アトラン | ATLAN Thierry アトラン・ティエリー | ー | ニューヨーク | ー |
Philippe Bertrand フィリップ・ベルトラン | Chocolate Academy Cacao Barry カカオバリーショコラアカデミー校 | ー | ー | ー | |
Alexandre Gyé-Jacquot アレクザンドル・ジェ・ジャコ | Maison Caffet Troyes メゾン・カフェ・トロワ オーナーのパスカル・カフェ氏はM.O.F.パティシエ | 有 | トロワ・パリ 東京 計6店 | 日本橋店 | |
Edouard Hirsinger エドワール・イルサンジェー | Hirsinger Edouard ※不定期通販あり イルサンジェー・エドワール | ー | ディジョン・東京 計2店 | 銀座店 | |
1993 | Jean-François Castagné ジャン・フランソワ・カスタニエ | Chocolat Castagné ショコラ・カスタニエ | ー | トゥールーズ 1店舗 | ー |
André Rosset アンドレ・ロセ | 不明 | ー | ー | ー | |
Serge Granger セルジュ・グランジェ | Aux Délices オー・デリス | ー | トゥール 1店舗 | ー | |
1990 | Pascal Brunstein パスカル・ブリュンスタイン | Ecole Lenotre(学校) | ー | ー | ー |
Fabrice Gillotte ファブリス・ジロット | Fabrice Gillotte ファブリス・ジロット | ー | ディジョン・ 東京 計3店 | 青山店 | |
Jean-Pierre Richard ジャン・ポール・リシャール | リシャール社(チョコ製造業経営) | ー | ー | ー |
【再掲】M.O.F.とC.C.C.で「見逃せない15選」に選ばれているショコラティエマップ
と、いうことを踏まえて見ると、この地図も味わい深いかも知れません。
M.O.F.(Meilleur Ouvrier de France:国家最優秀職人章)の試験について
M.O.F(Meilleur Ouvrier de France:フランス最高の職人)は、フランス文化庁がフランス文化を伝える技術があると認めた職人に与える称号です。
日本で似た位置にあるのは、厚生労働大臣が表彰する「現代の名工」タイトルでしょうか。現代の名工は1967年から始まり、表彰者は4000人超、M.O.F.は1924年から9000人が表彰されています。
大きく違うのが受賞の基準です。
現代の名工は、推薦➡審査➡受賞という流れですが
M.O.F.は自分で申請をしてから5段階の審査・試験を経て受賞。
①書類審査
試験は3~4年に1度だけ。フランスで5年以上働き、著名なタイトルを獲得したことがあり、フランス人の後見人がいる場合のみ、書類審査を受けられます。このとき、働いている店のシェフなど、指導者の推薦状が必要です。
②筆記試験
書類審査がまず大きな難関ですが、その次の筆記試験も難しい。
フランスにおける各専門分野の歴史・理論、今後M.O.F.がどうあるべきかなどの試験です。
ショコラティエだと、美味しいチョコを作るためのレシピ計算(各食材の油脂量・融点の計算等)などの問題も出題されるので、作るのが上手いだけでなく理論を正確に理解し、伝えられるかなどが問われます。
③第1回実技試験
ようやく筆記試験を突破したらようやく2日半の実技試験。
試験会場の審査員の前で指定されたお菓子を作ります。
試験中の映像も上がっていますが、作業中の様子など含めて審査されるので本当に大変そう。
④第2回実技試験
優秀な成績を残した人だけが、文化省の官僚の立ち合いの元、さらに厳しいと言われる2次実技審査を受けられます。
⑤最終実技試験
その約一割がファイナルに臨めるという…長く厳しい試験です。ファイナルでは文化省の官僚に加え、有識者・過去のM.O.F.取得者などが審査員に加わります。
この試験を通って、ようやくM.O.F.となり、エリゼ宮で授与式が行われるのですが、過去には受賞者が「該当なし」だったこともあります(2015年:ショコラティエ部門)。
この試験を受験する場合、使用する材料・道具などはほぼ持参する必要があり、ファイナルの時には各出場者が4トントラックに機材を詰め込んで参加するそう。職場の完全なるバックアップがないと難しいです。
と、いうM.O.F.です。長々とありがとうございました。フランス語ですが、こちらのサイトにM.O.F.審査の申し込み、過去の結果など載っているので興味ある方はどうぞ。
モンドセレクションってすごいの?
最後に、ときどき聞くモンドセレクションについても少しだけ調べました。
簡潔に言うと美味しさとは直接関係ありません。
モンドセレクションとは
Monde Selection(世界から選び抜いたもの)という名前で誤解されがちですが、先ほどまで書いてきたC.C.C.やM.O.F.とは全く異なります。こちらは、商品が正しく作られているか、の認証。
モンドセレクションは申請して選ばれる形式。この点ではC.C.C.と似ていますね。でも、大きく違うのが、製品の技術的水準、表記が正しいか、など科学的・法規重視の審査という点。たとえば、ダイエット食品の虚偽表示がないかや、原産地表示が正しいか、などの確認です。
科学委員会のが大切にするのは、販売のための強調表示と実際の栄養価が対応していることを確認することです。判断にあたり、試験室における分析データなどが使用されます。
日本では、さも、美味しいと世界が認めた、というように誤解されますが、美味しさとは関係ないものですので、ご注意を。
長くなりましたが
せっかくなので、今年はローラン・デュシェーヌさんのチョコでも買いに行こうと思います。なんだか色々な賞が多い業界なので分かりづらかったチョコの話が少しでも分かりやすく感じてもらえると嬉しいです。